発展する自毛植毛への期待

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細菌やウイルスなどが体内に侵入してくると、これらのリンパ球がよってたかって侵入者の退治や排除のために闘う。 ところがT君の場合には、リンパ球は700〜千個のあいだを前後している状態で、ときによっては400個という非常に小さな数値を示すこともあった。
リンパ球の密度が小さければ侵入者に対する抵抗力も低く、免疫力として大変にこころもとない。 T君の場合は生命にかかわるような状態だ。
それが2回の遺伝子治療によって、2千個弱という正常に近い値を示すようになったというのである。 その後、10月、11月、12月にそれぞれ約10日間ほど入院して、95年中に5回の遺伝子治療が実行された。
第4回目の治療の前、11月10日に、S医師は東京・新橋のヤクルトホールで行われた「遺伝子治療研究会ワークショップ」で治療内容を講演して、外来遺伝子が働いている効果が明らかに見られると発表した。 その前日にS医師と面談する機会があったのだが、治療開始前の「とにかく成功させねば」と緊張していたときの表情とは打って変わって、自信に溢れた顔つきになっていたのが印象的であった。
予定では4〜6週間の間隔で治療が繰り返されて、合計10回前後でとりあえず終了となるはずである。 それまで順調に進めば、T君はふつうの子供のように外で元気に遊べるようになる可能性は十分にある。
しかし、いま行われている治療方法では、病院に通う必要はないというわけにはいかず、月に1回弱ほどのペースで入院して、リンパ球を取り出しては遺伝子を入れ、再びリンパ球を体内に戻す必要がある。 そのため、S医師は「この先、より根本的な遺伝子治療を行う申請を出すつもりだ」と話す。
「より根本的な治療」とは、いまのようなリンパ球を対象とした治療ではなく、″リンパ球の母となる細胞″である造血幹細胞を対象とした治療である。 リンパ球を作り出す造血幹細胞にたいして、正常なリンパ球を作れるように遺伝子治療を施すと、この母細胞から作られるリンパ球はすべて正常なADA製造能力をもつので、永続的な効果が期待できる。
本来なら不治の病とあきらめなければならない遺伝病であるが、その人が生きているうちは身体活動の1つとして正常なリンパ球を作るので、実質的には治ったと同じことになるわけである。 以上のような経緯について多くの新聞やテレビは、いつも「″日本初″の遺伝子治療」という枕ことばつきで、医療関係のニュースとしては例外的とも思えるほど繰り返し、くわしく伝えてきた。

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